「……」
「……」
「……ちっす」
「……よっす」
「何やってんの泉、イヴに」
こそ何やってんの、イヴに」
「今からスーパーに買出し」
「マジで? ……俺も」
「……彼女もいないなんて不幸なヤツだね」
「その言葉そっくりそのままお前に返す」

そこで返す言葉もなくなり、お互い押し黙る。
泉がマフラーを口まで押し上げ「なあ」と小さく呟く。

「一緒にいかね? 独り身同士」
「いいよ別に」

なんとなく投げやりになったが、泉は気にせず横に並ぶ。
先ほどは泉が先行だったので、今度は私が口を開く。

「何の買出し?」
「兄貴が家でパーティーやってるからパシられた。は?」
「何、新しい年に向けての買出しだよ」
「何キャラだよ。つーか早くね?」
「ウチは25日がクリスマス本番なんだよ。24日なんてクリスマスじゃないの」

手を擦り合わせて、あ、と思わず声を上げる。

「何?」
「君ら野球部同士でパーティーとかしないの? むさいけど」
「明日。むさい言うな」
「いいねえ、仲間がいっぱい。私友達とかおらんでよ」
「嘘つくなよ」
「マジマジ」





スーパーの自動ドアをくぐると聞こえる、ジングルベル。
執拗なほどに、耳にこびりつく。





「さすがに若いヤツはいねえなあ」
「泉ジジくっさ。そりゃそうでしょ、こんなスーパー行くくらいだったらイルミネーションでも見に行く」

話しながらカゴとカートをゲット。
なんか今思ったけど同級生とカート引いてスーパーってなんだ。色気ないな。

「俺イマイチイルミネーションのすごさとかわかんねえ」
「人生半分損してるよ、それ」
「どんだけだよ」
「見に行くといいよ。ここから二駅くらい行ったら割といい感じのがあるから」
「暇があったらな」
「あるだろ。ユーアーシングル」
「シバくぞ」





そんなことを話しながらほうれん草をカゴに放り込む。冷気漂うコーナーを見て泉が一瞬寒そうに
腕をさすっていたので早めにコーナーを離れる。





「ていうか私結構買うけど付き合ってていいの?遅くなるかも」
「別に。腹いせになるからいい」
「最低だ君」





カートをからから引きながら、鶏肉もゲット。





「肉が食いたい」
「女子の言うセリフじゃないだろ」
「女の子だって肉は好きだよ別に」
は慎みが無い」
「んなもん母親のおなかの中に放置してきたわ」
「クラスにいるときは誰とも話さないくらい慎み深いのにな」
「黙れ」





そんなこんなでお菓子コーナーに到達した。
泉は遠慮なくポテチなんかの袋をカゴに放っている。





って結構話すんだな」
「……は? ごめんもっかい言って」
「お前ってクラスでは浮いてるよな」
「お口ミッフィーしろ」
「いつもそのくらいしゃべったらいいだろ」
「……女子にはドン引きされるんだよね」
「俺はいいってか」
「泉は”どうでも”いい」
「殴るぞ」





カートを押して泉が戻ってくる。





「しかしあっちーな、店内だと」
「コート脱げばい……あ、いや、脱がないでいいわ」
「はあ?」
「泉って着てる服ダサくない?」
「ダサくねーよ、お前こそその下のジャージだろうが」
「何が悲しくてスーパーに行くためにおめかししなきゃならないんだよ、泉は私の私服見たことあんのかよ」
「何かお前クラスで浮いてて服にまで気がいかねえ」
「二度もいったね。父親にも言われたこと無いのに」
「母親はあるのか」
「……」
「黙るなよ」





泉が2Lのペットボトルをカゴに突っ込む。今コーラって書いてあった気がする。
が、無視して私も麦茶を突っ込む。





「いいなあ、みんな浮かれてて」
「そうか? 俺は別にどーでもいいや」
「はいはいお友達がいっぱいでいいね」
「卑屈だな。そんなんだから浮くんだよ」
「でも泉は私の名前覚えてたね」
「まぁ、クラスメイトだからな。お前こそ俺の名前よく知ってたな」
「……人間観察が趣味なんで。野球部ぐるみは特にね」
「何で?」
「なんとなく、平凡校に新風巻き起こすって感じだから」
「ふうん?」





あとなんとなく顔がいいなあと思っていたから。イケメンとかじゃなく、いい感じの顔だ。
というのは黙っておいた。

ひたすら餅とかかまぼことか納豆(……?)とか買って、レジへ向かう。
少し列ができているが、スムーズに動いてはいる。





「結局泉はそんだけか。何かつき合わせたみたいでアレだったね」
「アレって何だ」
「いや、あ、やべ会計」





お金を支払って、泉より先に袋に詰める作業をする。
後から来た泉はその作業がすぐ終わってしまって、私の手元をじっと見ている。





「見ないでよ、普通に手元狂うわ」
「そんくらいでか」
「そんくらいでだ」
「……」
「……」
「……」
「……よし、終わった」

空になった籠を戻し、カートを引く。
からからと安っぽい音と、ジングルベルの安っぽい音が耳を突く。

カートを戻して、外に出ると一気に寒くなった。
二人で肩をすくめる。





「さみぃ」
「んー」
「帰るのめんどくせー」
「だねえ」





それから二人で無言になる。
首を回しながら、「ねえ」と泉に声をかける。





「何」
「あのさあ。クラスで浮いてるさんですけどー」
「おお」
「クラスとかで、話し掛けてもいい? ていうか、お友達申請していい?」
「……なんだ、それ」





ふと泉が立ち止まったので、私も立ち止まる。
泉は私に背を向けて肩を震わせている。





「……オイ」
「くく……お友達申請だってよ。ぷっ……小学生かよ」
「馬鹿にしてんの? ぼっち舐めんなよお前」
「ちが……お前むちゃくちゃ澄ました顔であほらしーこと言うから……けっこーかわいげがあんだな」
「……んだよもう」





途端に気恥ずかしくなり、泉の数歩先を行く。
それに気付いたらしい泉が、「あ、ちょっと待て、」と言って私を止める。

私は振り返る。





「何?」
「これ、……ほい」
「おわ」





泉は自分の袋をあさったかと思うと、チョコレートのファミリーパックを放り投げてよこした。





「……顔にあたりそうだった」
「それはそれでウケるな……くく」
「……何これ」
「クリスマスプレゼントとお年玉」
「馬鹿にすんなよ」





ず、と鼻水をすすりながらもそれを自分の袋に入れる。





「お友達申請、許可してやるよ」
「何様だお前」
「メリークリスマス」
「いや、だから何」





少し小馬鹿にしたような表情で、泉は「じゃあ俺こっちだから」と道を曲がる。
それをつい、引き止めてしまう。





「、ねえ、泉」
「何?」





「来年から、よろしく」





そういうと、泉は小さく笑って手を振り、角へ消えていった。
私もなんとなく、小さく手を振った。






……この後、また泉とお正月にエンカウントするのは、別の話。





A merry christmas to you.