クリスマス、私は幼馴染である山本になぜか電話で呼び出されていた。
竹寿司の前まで行くと、鼻を真っ赤にした山本がいた。
山本は私に気がつくと、大きく手を振る。
「なんか用?やまも、」
「ほい、メリークリスマス!」
「えっちょ、わぷ、」
山本がそのデカい体の後ろに何か隠してるなあ、と思っていたら、
それらしきものを思いっきり顔に押し付けられた。何だ嫌がらせなのか、そうなのか。
とっさに口は閉じたものの、なにやらふわふわしたものは私の視界をジャックしたままだった。
顔からそれをはがすようにすると、あらかわいい。
「……テディベア?」
「そ!かわいーだろ?に似てるぜ」
「……喜ぶべきか迷うよ、そのセリフ」
メリークリスマスといわれたから、もしかしてクリスマスプレゼントだろうか。
そのテディベアは割と大きくて、毛はふわふわした薄茶色。首には、青か緑のようなリボンが巻かれている。
うーん、確かにかわいい。なんとなく、毛を手で弄ぶ。うわっ、ふわふわあ〜っとしてる!
内心感動していたら、足と足の間を詰めたい風がすり抜けていく。「うわっさむー!」
「あ、そーだよな。中はいったほうがいーぜ」
「いいの?……じゃあおじゃましまーす」
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「おじさんは?」
「今買出し」
「クリスマスも忙しいのか、やっぱ」
カウンター席に座ると、山本が奥に引っ込み、両手に湯のみを持って戻ってきた。
湯のみからは白い湯気が立っている。
「あ、ありがとー」
「おう」
温かそうだな、と思いつつ、私は手に抱いたテディベアを右手の席に座らせる。
ちょこんと鎮座するテディベアは可愛くて、なんとなく満たされた気持ちになる。
「はは、ソイツ座らせんのな!」
「ちょ、笑わないでよ……いいでしょ、別に」
ちょっと子供っぽかったか、と思いつつもテディベアはそのままにしておく。
テディベアをはさんで、山本が座る。
湯のみに口をつけると、湯気と緑茶の香りがふんわり漂う。
「あったかーい……」
「そりゃ良かった」
しばらくずず、と飲んでから、隣にいるテディベアに目を向ける。
「ねぇ山本、さっきはそのままもらっちゃったけど、私プレゼントとかもってないよ?交換できないよ」
「んー?別にいいって!俺がにやりたいなーって思っただけだから」
「うっわ出たよ天然。……これ高いんじゃない?」
「あー……でも小遣い貯めて買ったし、そうでも」
「はぁ!?え、そんなに!?野球道具とかかいなよ……」
「まぁそれもいいけどさ」
はは、と山本は明るく笑っているが、私はもうこのテディベア大事にしよう、という気しか起きなかった。
来年は必ず山本用のプレゼントを購入しよう。
「ねぇ、この子名前とかある?」
「名前?さあ」
「いいやつだと名前がついてるイメージなんだけどなー」
そう口にしつつ、クマちゃんを身体検査するが、特に名前はない。
「名前つけよっと」
「、そういうの好きな」
「……そう?」
「昔小学校の教室で飼ってたメダカ一匹一匹に名前つけてたし」
「……あー思い出した」
「まだ覚えてたりしてな!」
山本はさらっとそう言ったが、記憶を呼び起こしたらしっかり覚えていた。
でも名前が「めーちゃん」とか「だっくん」とか安直だったのも同時に思い出したので黙った。
「んー、名前。何がいい?」
「武ってどうだ?」
「山本に聞いてないしそれ山本の名前だし」
「あれっ、俺に聞いたんじゃねーの?」
「この子に聞いたの」
ねー、といいながら、目線を合わせる。
山本は、そんな私をじっと見ている。
「……何」
「いや、やっぱってかわいーのな!同い年とは思えねー」
「いろんな意味で傷つくからやめてよ」
じろっと山本をにらんだ後、「そう、だね。君の名前はバンブーってことで。リボンも青だし、男の子っぽいでしょ」と命名を終えた。
「バンブー?なんか変わった名前だな」
「ふふふ、可愛いでしょ。僕バンブー、よろしく!」
そう言ってクマちゃんもといバンブーの右腕を動かす。
山本もそれに笑って、「おう、よろしく!」とバンブーの小さな右手を握る。
「……うおっ、割とふわふわ」
「買った時触ったでしょ」
「改めて触るとなー」
むにむにと真剣になってバンブーの右手を触る山本を見て、なんだか子供みたいだなーとほほえましくなる。
「?何笑ってんだよ?」
「いや、なんでも」
ちょっとだけ、心がほっこりしました、なんてね。
Happiness is having a friend like you......