
「せんぱい、ピアス開けません?」
「え゛」
隣を歩いていた財前が、突拍子もないことを言い出した。
思わず耳を押さえると、「やっぱり嫌か……」と財前が小さく呟く。
慌てて手を離し、少しずり落ちた青いマフラーを口元まで上げる。
「当たり前じゃん、痛そうだし、第一チャラい」
「髪茶色くなってる人に言われたくないっスわ」
「うぐ」
だっていいじゃんミルクティー色。かわいいじゃん。人形みたいで。
そう思って、唇を尖らせながら自分の髪先を見やる。
「とにもかくにも開けないし、突然何?」
「いや、」
そう言って財前は自分のポケットをあさる。
そこから出てきた小さな袋には、赤いリボンのシールが貼ってあった。
先輩手ェ出してください、といわれ、素直に掌でおわんを作る。
「どーぞ、クリスマスプレゼントです」
「うわ、マジで?ありがとー」
袋を開けると、そこには一対のピアス。ピンクの薔薇がついていて、シンプルながら可愛い。
可愛い、けど。
「いや、まだ穴は開けないよ……」
「ええ加減開けたらええやないですか」
「やだよ。痛そうだし、よく財前はいっぱいつけてるよね、M?」
ふざけてそういったら耳をひっぱられた。ひぃい、やめて!
何か無理やり穴空けられそう!
財前は私の耳から手を離すと、少し首をすくめた。
「先輩に合うと思って。ホントは星モチーフとかあったんスけど……」
「けど?」
「なんかムカつくんでナシにしました」
「何で!?」
無表情で言い切った!
こっわこの子!本当に何で!?
少しばかりの恐怖を覚えていると、財前は私の髪をちらりと見た。
「茶髪によう合いますよ」
「確かにね。うーん……」
「軟骨にも開けます?」
「いやそれ痛いところでしょ!?何さらっといってんの!?」
「何や知ってたんですか……」
「ちょ、残念そうな顔しないで、怖い」
手に持ったままのピアスを眺める。色もケバくないしいい感じだけど、
痛いのは嫌だなあ。
ふと、財前の耳についているたくさんのピアスを見やる。
耳の先は赤くなっていた。
「ていうかピアス、冬とか寒いっしょ」
そう言って財前の耳に手を伸ばすと、身をさっと引かれた。
お?
「……」
「……」
「……」
「……」
にまっと笑って、無理やり財前の耳に手を伸ばす。
財前は若干赤い顔で、必死に私の手をかわす。
「ちょ、先輩、マジでやめてください、」
「耳弱いの?」
「触られんのがアカンのや!」
そう言って、財前は私の手首を掴んだ。
私は目を丸くしたまま、財前を見る。
「……触ってんじゃん」
「……そういう意味じゃないっスわ」
財前ははぁ、と小さくため息をついて、手で顔を覆ってしまう。
手首を開放されて、また二人で歩き出す。
寒いなあ、と思いつつ、手に息を吹きかけて擦り合わせる。
「結局先輩、ピアスはつけてくれないんやな」
「そーね、」
まぁ、いつか穴をあけるときは、財前にお願いするよ。
そう呟くと、財前は私の手を握って、少し早足で歩き出した。
wishing you good health,happiness,and peace always.