「あ」

ばつん、と音がした瞬間、急に目の前が真っ暗になった。

「もーまたか…」
「主、いい加減お上に言った?」
「言ったよ〜でも忙しいから年明けまで待てって」

近頃の本丸ではよく停電が起こる。
クリスマスパーティーと称した宴会が終わり、酔いつぶれた刀剣を広間に放置し、おねむの短刀たちを寝床へ連れ、と光忠は台所で洗い物をしていたところだった。
「皆寝ててよかった、起きてたら絶対余計なことする奴いるし」はは、と暗闇の中で光忠が笑う。

「予備電源つく前に様子見てこようかな」
「…あ、主」
「ん?」
「ちょっと待って」

どうも光忠が引き戸を開けているらしいことに気がつき、は首をかしげた。
「確かこの辺りに…あった!」ごそごそと物音がして、光忠の声のする方が突然ぽうっと明るくなる。

「うわ!びっくりしたあ…それ、キャンドル?」
「そうそう、この間手作り教室をやってて。蜜蝋でできてるんだよ」
「…光忠それ行ったの?」
「え?うん」
「周り女の人ばっかじゃない?」
「そうだけど…でも皆凄くよくしてくれたよ」

「(そりゃそうだ)」光忠の主婦化が止まらないな、とは遠い目をした。
光を頼りにテーブルにつき、はキャンドルに目を凝らす。

「…これ、ツリーなんだ」
「サンタさんもあるよ」が口元を綻ばせる。

「…甘い匂いするね」
「蜜蝋だからね」

優しい光を眺めていると、互いにどんどん言葉少なになった。

はちらりと光忠を盗み見た。炎に照らされた光忠の瞳は蜂蜜のようだ。その顔に、はじっと見入った。

「――主?」
「ぅえ!?」

「…どうしたの」と笑われて、なんとなく気恥ずかしさに返事を迷っていると、ふいに辺りが明るくなった。

「わっ、まぶしっ」
「あ、ついた。…電源切り替えてこないと」

そういって光忠が席を立ち、キャンドルの炎をふっと吹き消す。

「…ちょっと残念。もう少し主と話してたかったのにな」

は今度こそ参りましたと卓上に突っ伏した。