お茶に口をつけて、飲むのをやめた。
マグカップ(中身は麦茶)をテーブルに置いて、沈黙。





マグカップの底をひたすら見つめながら、今日の(まだ昼だけど)回想をしてみた。











今日は朝、いつも行きつけ(というかそこしか近いお店がない)のCDショップに行った。

開店早々だったから、人はほとんどいなくて、(というか見渡す限り確認できる「人」は店員さんだけで)
でも私は人ごみが苦手だから、都合が良かった。

店内のBGM曲に、上部からぶらさげられたテレビに映るPVの音楽。

いつもはそこに人の声がプラスされるけど、今日はまだ静かな方だった。
だから私は嬉々として、J-POPのコーナーへと向かったんだ。










向かったまでは良かったんだ。










ポシェットの紐を意味もなく握り締め、私は立ち尽くした。










「(ひ と が い る !)」










……いや、店なのだから当然だけれど。











私は、私以外に客はいないと思いつつ店内を歩いていたから、思わぬお客さんにどっきりしてしまったのだ。
しかも彼の背が異様に高かったので(威圧感というのか存在感というのか)びっくりした。

彼はヘッドフォンをかけて試聴をしていたが(……中々に似合っている)
私に気付きこちらを見た。





数秒の沈黙。





彼は興味が無いように、目線を元に戻した。
私は「(気まず!)」とつっこみながらも足を動かして、彼の隣へ向かった。





正確には、彼の隣にあるCDの元へ。





……そこで私に小さい邪念が湧いた。





どれを買おうかなーと思案するふりをしながら、彼の聞いている曲を盗み見た。
最近じわじわと流行り始めた(J-POPだから当たり前か)テクノポップだった。

……けど、私はその曲が好きじゃなくて(フィーリングでだけど)、
何だ、と目線を棚に戻そうとしたとき、彼がこちらを見ているのに気がついた。





ぴしりと固まる私を見ながら、彼はヘッドフォンを外して一言。










「何」










……その一言で、私は逃げた。
頭を下げてから、文字通り、逃げた。










だって、ちょっと怖かったから(無言の抑圧ってやつだ!)。
















……それが今日あった全ての出来事であり、今に至るまでの経緯だ。
見知らぬ人に恥を晒し、あまつさえ逃亡した自分には、スコップを贈呈したい。
要するに、穴があったら入りたい。





「うぎぅるらぁああ〜!」





私は机に突っ伏して、奇声を上げた。
馬鹿な自分をぽかすかと殴り、唸った。





沈黙。





私はうう、と唸りながらお茶を啜った。
私は小さい人間だから、ちっちゃいことを気にする。





気にしなければいいのにね!





……そう思いながら、私はしばらくCDショップに行かないことを誓った。