「この間の……CDショップの、」
「お客様?」
「うわっ? あ、あわわ、すいませんっ、」

会計を済ませたお姉さんが、にっこりと笑いながら首を傾げていた。
慌てて財布を探り、ポイントカードを引き抜く。





それからお釣りを貰って、急いでレジを離れた。











「……、……」





物を適当に袋に詰めながら、ちらちらとあの背の高い人を見る。
レジのお姉さんがにっこりと笑っても、その人の表情は変わることが無かった。要するに無表情。





「(私、何かしたっけ)」





いや、したといえばしたんだけど。声をかけられるまででは無い、と思う。
相手が物凄く短気で執念深い、とかだったらありそうだけど、全く逆のタイプに見える。

悶々と考えていたら、その人は籠を持ってこちらへやってきた。





「……」





その人は無機質に私を一瞥すると、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。

「?」

何かを探り当てたらしく、その人は手をポケットから抜く。
……骨張ってる手だなあ。冷たそう。





そう思っていたら、その手は拳となって、ゆっくりと目の前に突き出された。





「これ、」
「え?」
「……はい」





ぽと、と目の前で落とされた何かを反射的に「おわっ、」キャッチ成功。
渡した本人はそれを見届けると、買ったものを袋に詰めだした。

「……?」

掴んだものは固くて、何だろう、と思う前に、一つの推測が浮かび上がる。
指で、手の中の物を撫でる。擦れた痕があった。





……もしかして。





にやける顔を必死に引き締め、どうかそうでありますようにと祈りながら、





ゆっくりと、掌を開く。










そこには、真っ黒で、少し瑕の付いた猫が転がっていた。










「……」





口と頬が、上へと上がっていく感覚を全身で感じる。





私の、猫ちゃん。





返事をするように、プラスチックの猫が鳴いた気がした。