「あの、有り難う御座いました! 本当に!」
「別に……近くに落ちてたから、もしかしてと思っただけ」
「いやでも本当に有り難う御座いました……!」

どんなに相手の反応が冷たくても、今の私は興奮であっちっちである。
あんまりぎゃーぎゃー騒ぐと煩いので、もう一度だけお礼を言ってから、私は柔らかく握り締めていた掌を開く。





やっぱりそこには黒い猫。





……何度見たって、にやにやしてしまう。
何だか、無くなっても見つかるなんて、運命じゃないかね、ええ、猫ちゃんよ。

そう思いながら猫をポシェットに仕舞いこみ、中途半端に止めていた商品詰めを再開する。
そして買った物全てを詰め込み、ぱんぱんになったエコバックを持ち上げようとして、





視線がかち合った。





「……」
「……」





時が止まるって、こんな感じなのだろうか。

さっきまでうきうき気分で浮かれていたのだが、そんなに、じっと見つめられると、あの……テンションが若干潮のように引いてしまうのです、が。

瞬時冷却された私を見て、
その人はやる気なさげに指をさした。





「……それ。大事なの?」





指先の行き着く先は、私のポシェット。

「え? ああ、はい」

多分猫の事だよなと思いつつ返事をする。
……うーん、三回目? ともなるとこの人との会話も慣れてきた。いやまあこっちがビビってただけですが。





その人は眼鏡の奥で瞬きすると、「じゃあ大切にしたら」と小さく言った。





「え、はぁ……」
「……」





私の生返事に、その人は溜息をつきながら(馬鹿でごめんなさい)、自分の買ったものを詰めた袋を持ち上げる。
……おおう、結構な量。親御さんの代わりにおつかいか、ルームシェアか、はたまたこんくらい普通に食べる人……どんなギャップだよ。

ただ、結構な量を持っているにも関らず、彼はよろけもせずにすたすたと(それにしてはやる気無い感じの背中だったが)去っていった。





「……うーん」





なんていうか。





「……ああいうタイプ、クラスに一人はいるよなあ」





うん、そんな感じの感想しか持てませんでした。