完全に雪解けした空気の中、私は「もっと仲良くなり隊」を一人で実行していた。





簡単に言うと、何かいろいろ喋った。ただ、必死すぎて、何を喋っていたかはあまり覚えていない。……多分、猫のストラップとかについてだと思う。しかし、そこまで喋ったら逆に、猫のストラップオタクみたいで嫌だなと今更ながら思った。そんなのあるのか知らないけどな!

柿本さんは、時々小さく相槌を打ち、犬さんは……食べるのに夢中だった。
ただ時々、こちらに目線をよこしていた気がした。











帰り際。





「では、お邪魔しました」
「おい、ぜってー今度もってこいよ! 約束らかんな!」
「あ、はい」


持って来い、とはゲームソフトの話である。


実は、部屋にあったゲーム機の存在を思い出して、いきなり猫のストラップ話からゲーム機の話へと話題転換したら、犬さんがお菓子を食べる手をやめ、こちらを凝視してきたのだ。

これは! と思った私は、もう大げさなくらい自分のゲームの話をした。案の定、犬さんは食いついてきた。
そこまでゲームをやるってわけじゃないけど、話題作くらいならちょいちょい買う派です。RPG好き。

少し収穫あったな、と思いつつほくほくしていたら、柿本さんがぼんやりと私を見つめていた。





「また来れば」
「……、……はい!」





犬さんにゲームソフトを貸さなきゃいけないから、きっとまた来なきゃいけない。
それでも、「また来れば」と言ってくれたってことは、少しは親しくなれたのかもしれない。

そう思って、私は嬉しくなった。











自分の部屋に入って、ドアを後ろ手に閉めながら靴を脱ぐ。
久しく感じていなかった充足感を味わっている気がする。

そう思いつつ、軽い足取りでゲームソフトの置いてある棚に向かう。
ゲームソフトのパッケージの背表紙に指を引っ掛けたところで、犬さんのぶすっとした顔を思い出した。

「(……そういえば、)」





なんで柿本さんと犬さんは一緒に住んでるんだろう。

年は同じくらい? に見えるし、ルームシェアとかか。

ひとつ疑問が湧き出ると、なんとなく、心の奥底で疑問に思っていたことが流れ出た。
膝の上に手を置いて、棚を見つめつつ思案する。





二人とも変わってるような。見た目も、あと、雰囲気も。

そもそも柿本さんも、ちょっと見てたくらいでその人に声をかけるかな、普通……いやでもこの間電車で男の子に難癖つけてた不良っぽい人……いや柿本さんは不良じゃないか。ていうか柿本さんが声をかけなかったら今のこの親交は無いな。





「……ていうか本当に大学生なんだろうか」





学生って学科とか学校違うだけでかなり色合い違うし。
今度会ったら聞いてみよう。





そう思って私は、ゲームソフト回収を再開した。