『……あんまり知らない男の人の家に上がりこむのはよくないんじゃない?』
「……、……柿本さんはそんな人じゃないから!」
ついかっとなって、勢いで携帯を切った。
相手はお母さんだった。元気でやってるかという電話がきたので、つい興奮して柿本さんのことを話して、冒頭に戻る。
ベビーピンクの携帯の表面をなぞって、それから段々冷静になっていく。
……お母さんはあたりまえのことを言ったんだ。それなのに怒って。子供っぽいぞ。
まだまだ修行が足りませんな、と思いつつ、携帯をぱかっと開く。後悔してるなら、今すぐ謝るべきだと思ったから。
着信記録をたどって。呼び出し音が鳴る。と、つながった。
「……お母さーん」
『……なあに?』
ごめんね、と自分でも驚くくらい弱弱しくいうと、いいよ、といってお母さんは少し笑った。
それから、お母さんもごめんね、と小さく言ったので、電話口で小さく頷いた。
そんなことがあった日曜日。
休みも明けて、私は大学にまた足を運んでいた。
ちなみにあの電話のあと、私とお母さんは柿本さんの話で盛り上がっていた。
そういや柿本さんってお父さんに似てるよ、と言ったら、本人に言ったら拗ねるから言っちゃ駄目よといわれた。言わないよ。
「、おはよ」
「あっ、おはよ」
電車内で友達の京に会って、小さく手を振る。
しばらく世間話をしてから、私は新しくできた知り合いの話をした。
お母さんと違って、京はふんふん、と興味深げに聞いている。
っていうことがあったのね、と一区切りすると、京は目を爛々とさせながら口を開いた。
「へえー。ねえ、その人ってかっこいい?」
「え。……うーん」
柿本さんの顔を思い描く。
何を勘違いしたのか、京は少し眉をひそめる。何で。
「え、かっこよくないの?」
「いやいや、そんなことないと思う。背高いし、顔は……うん、整ってる。けどなんていうか、個性的?」
「ほー」
「眼鏡かけてて、帽子が似合うの。ニット帽とか、」
ふと、話している途中で、電車内の女の子と目が合った。
目のくりっとした、色の白い子だった。目を怪我しているのか、医療用の眼帯をしている。
じっと私を見ていたらしく、目が合った途端、その子はわたわたと慌てだした。……かわいい子だな。
京がニット帽? と言いながらけらけら笑う声に、その子からの意識は逸れた。
話を一段落させて、女の子のいたほうを見たら、女の子はもういなかった。
「そういえばさ、」
「、うん?」つい反応が遅れる。
「……何みてんの?」
「あ、ごめん、すんごい美少女がいたから」
「何いってんの!」
笑われて軽く肩を叩かれた。何でだ。
京は少し笑いを残したまま、口を開く。
「で、話戻すけど」
「あ、うん」
「実はさ、他の大学に通ってる友達からさ、一緒に遊ばない? って話が来たんだけど、来ない? 男の子来るよ!」
「……そうやって言われるといきたくない不思議。まぁ男の子の部分は置いといて……いーよ、いつ?」
「んーとね、来週の火曜日。多分カラオケとかそんなんだよ」
いつになっても高校生気分は若干抜けないな、と思って少し苦笑い。
でも、人と遊ぶのは好きだから問題ない。というより、フレンドリーが好きな人種だからね私。
「じゃああっちに連絡しとこっと」
京の弾んだ声を聞きながら、どんな人が来るのかな、と少しだけわくわくした。
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